介護業界で19年間働いてきた看護師が教える高齢者の介護・看護のコツ① 認知症の方と接する時の心構えとコツ

高齢者の看護・介護

私は看護師として高齢者看護・介護の現場で19年間働いて来ました。はじめは高齢者の方ばかりが療養生活を送っている療養型の病棟で看護主任として働き、その後は、デイサービスでの勤務を経て、現在は小規模多機能の施設で訪問看護師として勤務しています。

今後、数回に分けて、私が学んだ『高齢者の介護・看護のコツ』について書いていきたいと思います。

本日は、『認知症の方と接する時の心構え』をお伝えします。認知症のご家族がいる方、仕事で認知症の人と関わる機会があるような方たちの参考になれたとしたら幸いです。

認知症とは

認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、記憶力、思考力、判断力などに障害が起こり、日常生活に支障が出ている状態のことを指します。有効な治療法は現在の医学でも確立されておらず、経過は非可逆的(もとには戻せない)で、回復することはありません。

認知症の種類

認知症にはいくつかの種類がありますが、主なものとして、アルツハイマー型認知症、ピック病、前頭葉型認知症、びまん性レビー小体病、脳血管性の認知症などが挙げられます。

認知症の種類によって症状にはそれぞれ特徴がありますが、同じ種類の認知症であっても症状の出現する様子は人それぞれで千差万別です。私が大切だと思うのは、目の前にいる方の認知症の種類が何かということよりも、その方の個別的な症状の特徴と、その方にあった対処の方法を見つけるという事です。

認知症の方と接する時の心構えやコツ

一口に認知症といっても、その症状は様々です。今回は、どんな種類の認知症であったとしても、接する際には気を付けておかなければならないポイントを、看護師としての経験を踏まえて説明したいと思います。

心構えとコツ

①その行動、発言、症状は認知症が原因であることを理解する

重度の認知症の方は、数秒前の事さえ完全に忘れてしまいます。食事を摂った直後(本当に数秒後の方もいます)に、「ご飯はまだですか?」と、本気で質問をしたりします。

認知症のことを知らない方は、『何を言っているのだろう?』と不思議にお思いになるでしょうが、質問をした認知症の方は本当に食事をした事を忘れてしまっているのです。ほんの数秒前の事であったとしてもです。

「ご飯、ちょうだい。お腹が空いた」

「どうしてご飯をくれないの?」

と何度も繰り返して、時には本気で怒り出したりもします。それが食事の直後であっても、訴えているご本人は本当に忘れてしまっているので、空腹もリアルに感じておられるのです。

「さっき食べたじゃない!」

介護・看護のプロでも、時々、そのような訴えは認知症が原因であることを完全に忘れてしまっている人に出会うことがあります。知識としては認知症を知っていたとしても、認知症を理解することはできていないのです。

少し前の事でも忘れてしまうのが認知症という病気なのです。

認知症の方が食事を摂ったばかりなのにそれを忘れてしまって空腹を訴えたり、食事を要求したりするのは、認知症という病気のために食事した事を本当に忘れてしまっているからなのです。そのような認知症の方の言動を「さっき食べたじゃない!」などと真っ向から否定するのは、インフルエンザに感染した方に向かって、「どうして熱があるの!」と叱っているのと同じ事なのです。

②正しいことを伝えても無意味なケースもある

「ご飯はまだですか?」

食事を摂った直後なのにそれを忘れてしまって本気で質問をしてきた認知症の方に向かって、「お食事は先ほど、召し上がられましたよ」と説明しても、納得は得られない場合が多いです。中には、「そうだったかしらねえ。ごめんなさいね」と、納得してくれる方もいますが、そうでないケースが多いと思います。

そのような場合は、「今、急いで準備しておりますので、もう少しお待ちくださいね」と、申し訳なさそうに伝えると落ち着いてくれることがあります。嘘も方便です。それでも、どうしても空腹感の強い場合は、何か軽く召し上がってもらったうえで、今、急いで準備をしていると伝えても良いと思います。

また、認知症に多い症状として、強い帰宅願望、帰宅願望があります。たとえ自宅にいるような場合でも、ご自分の記憶の中にある自宅と違った場合に「家に帰りたいから送って行って欲しい」と訴える事もあります。

「ここが家だよ。一体、どこに帰るの?」

と、事実で返答をしても、ご本人は絶対に納得してはくれません。そのような場合は、「今、車を準備しています。もう少ししたら送っていきますからね」と、ご本人が許せたり納得できたりしそうな内容をお伝えした方が良いです。

デイサービスなどを利用されている方で帰宅要求の強い方で、午前中から「何時になったら帰れるんですか?」と訴える方に、「帰るのは四時半ですよ」と正しい時間をお伝えするのも良い対応とは言えません。

午前10時に帰宅要求があった場合に正しい時間を答えてしまうと、まだ何時間も帰られないということに立腹して精神的に興奮したり、帰りたいという願望が爆発したりしてしまうからです。

認知症の方のお世話をしていて一番大変になるのは、感情が爆発してしまうことです。感情が爆発してしまったご本人も大変ですし、その周囲にいる方々にも怒っている雰囲気が伝染し不穏になってしまうからです。

そのような場合には、「もう少ししたら送っていきます」や「今、お昼ご飯をつくっているので、お昼だけは食べて行って下さい」、「ご飯を食べたら送っていきます」などと上手に誤魔化す方法も一つの手です。

③怒っている方への接し方

怒っている認知症の方と接する際に私が気を付けていることは、まず、安全に配慮しつつ、一旦、距離を置くという事です。怒りを受け止めて話し合いをしようとしても、言葉によるコミュニケーションがうまくいかずに、怒りが更にヒートアップしてしまうことが多いからです。

怒っていても、周りにその怒りをぶつける人がいなければ、時間が経てば落ち着いていくことが多いです。ぶつけ場所が見つからずに一旦、温度の下がった怒りは、テンションを上げるのにエネルギーが必要となるため消滅してしまうこともあります。また、少し時間を置けば怒りも自然と収まり、怒っていたこと自体を忘れてしまっている事も少なくありません。

怒っている認知症の方に、怒りの原因について論理的に質問したり、説明したりするのは良い対応とはいえません。怒りにスポットが当たってしまって、余計に興奮してしまうことが多いからです。ご本人でさえ、どうして自分が怒っているのかを忘れてしまっているということも良くあることなのです。『怒り』という感情には焦点を絞らず、頃合いを見計らったうえで適度な距離をとって寄り添い怒りが鎮まるのを待ってあげて下さい。

具体的には、怒りの頂点が少し過ぎたころに近づき、特に何も話しかけることなく隣に座って塗り絵をしてみたり、テレビを観てみたりして同じ空間で時間を過ごして下さい。そして、少し時間が経ってから「まだまだ寒いですね」などと全然違う話題を提供することで、『怒り』という感情からスポットを外してあげることで落ち着きを取り戻すケースを私は何度も経験しています。

また、怒っている方に笑顔で近づき、その方の好きな歌を歌ってみることが有効な場合もあります。ケースバイケースですので全ての方に有効ではありませんが、試してみて上手くいけば活用できる方法です。

私が勤めている施設の利用者の方で、どんなに怒っていても近づいて『お馬の親子』を私が歌うとつられて一緒に歌い出し、最初は強張っていた表情も気が付くと笑顔になっている方がいます。笑顔になっている間に、トイレ誘導をしたり、浴室にお連れしたりすると抵抗なく介助を行うことが出来ます。

どんな対応をしても怒りや興奮が治まらずに大声や暴言が続くような場合には、他の利用者の方への影響も考慮し、別の場所に移っていただく等の措置も時には必要です。感情は感染しますので。

④言い方には敏感

認知症になってしまって色々なことが理解できなくなっても、相手の言い方や、言葉遣い、相手の雰囲気には敏感な方が多いです。私が心がけているのは、とにかくソフトな言い方、優しくて温かい雰囲気です。

普段から口調がきつめの方や、雰囲気にソフトさが無い職員は、生活の介助をしようとしても拒否されてしまったり、怒らせてしまったりすることが多いです。

穏やかでソフトな言い方や、温かな雰囲気で伝えた方が、認知症の方でも聞き入れてくれる確率が高いです。

⑤相手に対する好悪の感情は覚えている

過去の経緯や、具体的な言葉などは忘れてしまっていても、相手に対する好悪の感情だけは残っている方が多いように思います。常日頃からとにかく笑顔で感じよく、相手を怒らせないように接することが大切です。

⑥短い言葉、センテンスで伝える

「今日はおやつにコーヒーと紅茶をお出しするのですが、どちらが良いですか?」

認知症の方にとって、上の質問は長い文章です。

「コーヒーは好きですか?」

「紅茶は好きですか?」

と聞き、その答えでどちらが飲みたいかを忖度して下さい。両方好きな場合は、「コーヒーと紅茶どっちが良いですか?」と来てあげて下さい。

⑦行動は区切って促す

車椅子からベッドに移る際などは、「ベッドに移りますよ」とお伝えするよりは、行動を区切って促した方が理解しやすいです。

「ベッド柵を掴みますよ」

「立ちますよ」

「ここに(ベッドを手で叩きながら)座ります」

「横になりますよ」

と、動作を分解して伝えると、スムーズに移乗が行いやすいです。

 

⑧人情に訴えかける

入浴が嫌いな認知症の方に「お風呂に入りましょう」と伝えれば、確実に拒否されてしまいます。そのような場合に、今日は自分がお風呂のかかりであることを伝えたうえで、「〇〇さんがお風呂に入ってくれないと親方にすごく怒られてしまうので、どうかお願いします」などと人情に訴えかけると素直に入ってくれることもあります。

食事を食べたくない、と仰っている方に、「今日のご飯は私が作ったんですけど、〇〇さんが食べてくれないと、私が会社をクビになってしまうので少しだけでも食べてくださいませんか?」と、泣き真似をしながら伝えると、先ほどまでの拒否が嘘だったかのように食事を食べてくれることもあります。

「私がクビになると、腹を空かせた幼い弟と妹が路頭に迷うんです」

「事業に失敗した父と病弱な母が、私の稼ぎを待っているんです」

などのフレーズも、認知症の方の心にスッと入っていき、嫌がっていた入浴を何故か受け入れてくれることもあります。悪意のない、介助がスムーズにいくための作り話は、私は介護の現場には必要だと考えています。

⑨笑いは武器

認知症の方の感情がネガティブに傾いている時、排泄や食事、入用など日常生活のどの行動にも支障が出ることが多いです。まずは明るい雰囲気で親しみを込めて接し、相手から笑顔を引き出すようにして下さい。

私は何もないところでわざと蹴躓いてみせたり、たくさんの食器を運びながら不安定な様子でおどけて見せたりして、認知症の方でも理解しやすい笑いを提供して日ごろから笑顔を引き出すように心がけています。

⑩距離感を縮める

苦手な相手であっても、なんでもないような時に、隣のソファーに腰かけてテレビを見たりして距離感が近くなるように心がけています。別に何も話しかけなくても良いのです。短時間でも良いのです。そして笑顔を向ける。

そのような積み重ねをしておくことで、他の職員では聞き入れてくれないようなお願い(トイレに行くとか、入浴するなど)を、素直に聞き入れてくれるようになることもあります。

⑪繰り返すのは修行と心得る

認知症の方が同じ行動、言葉を何度も何度も繰り返してしまうと、その対応をする職員にも疲労やイライラが蓄積してしまいます。介助をする職員も、聖人君子ではなく同じ人間だからです。

しかし、同じ繰り返しを、絶好の人間修行の場だと心得ることで、イライラを募らせることなく接する事が出来たりもします。どんな言葉を伝えても、何をしても繰り返しが治まらないケースが多いです。相手の行動は変えようが無いのですから、自分の受け止め方を変えるしかありません。

認知症の方の繰り返しの言動、要求に心が動かされないように呼吸法や瞑想法などに取り組んで自分を高める糧にしてしまうのです。

⑫痛みの有無の確認をする時

『痛み』という症状を把握することが、認知症の方の介護では非常に難しいです。言語によるコミュニケーションが認知症のために上手く出来ないことが多いからです。

例えば、頭痛があるかどうかを確認する際に、「頭が痛いですか?」と聞いてしまうと、痛くなくても「痛い」と答えてしまう方が多いです。認知症の方を看護・介護している場合は、正しい状況を把握することが非常に難しいケースが多いです。

先ほどの質問で、「痛い」と答えた方が、その直後に「どこか痛いところはありますか?」と聞き直すと、「痛くない」と返答されることが多いです。本当に頭が痛い場合は、「痛いところある」と答えたり、「頭が痛い」と答えたりしてくれます。

まとめ

以上、私が看護師として高齢者看護・介護の現場で19年間働いてきて学んだ、認知症の方と接する時の心構えとコツでした。

今回、ご紹介した対処法でも、上手くいく時もあれば、全然、上手くいかない時もあります。私も、日々の介護・看護の現場で、自らの介護・看護のスキルを高めるための悪戦苦闘を楽しんでいます。

私がつかんだ心得やコツが、認知症の方と接する機会のある方の少しでもお役に立てたとしたら幸いです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

前に進む。たとえジグザグであろうとも。

Follow me!

コメント