看護師が見つめた23歳の青年の旅立ち⑦ お母さんから聞かされた真実

生老病死

コーヒーショップ

コーヒーショップで向かい合うように座った信五君のお母さんは、いつもより小さく見えた。

「ザガー先生、いつも本当にありがとうございます」

店員が来て注文を聞いてきたのでホットコーヒーを注文したが、飲み物なんて何だって良かった。

オーダーした珈琲が運ばれてくるまでの間、お母さんが気を使って色々と話しかけてきたけれど、私はどこか上の空で質問に答えていた。

「ザガー先生も看護師さんのお仕事、色々と大変じゃない?」

「大変って言えば大変だし、大変じゃないって言えば大変じゃないですよ…」

当たり障りのない会話していると珈琲が運ばれてきた。

お母さんから聞かされた真実

「実は、ザガー先生に、お話ししなければいけないことがあるんだけど…」

その言葉を聞いた瞬間に、私は胸が無性にざわつくのを感じた。

「信五が大学一年の夏に急にお腹が痛いって言い出して、検査をしたら大腸癌が見つかったんです」

私は黙ってお母さんの話を聞いていた。

「それで、実は、手術でお腹を開いた時には、もう、どうしようもない状態だったんです…」

私には、まるで理解ができなかった。この人は、一体、何を言っているのだろう?

「結局、癌を取ることは出来なくて、そのままお腹を閉じたんです…」

言葉の、文章の意味を理解はしていたけれど、何を言っているのか判らなかった。私を支配していた感情は怒りだった。

「それで、あの子には…、手術で全部、癌は取り除けたって言ったんです…」

涙をこらえることなんて出来なかった。

怒りと悲しみが混ざり合って爆発した感情が、涙となって次々と瞳からこぼれ落ちていった。店員の置いていった珈琲を目の前にして、お母さんと私は、二人して黙ったままで泣きながら鼻を啜った。

私がお母さんに伝えた事

どれくらい経過したかはわからなかったがしばらく時間が経ってから、お母さんは私に、信五君の置かれている状況について説明してくれた。

お母さんの話してくれた内容を整理すると以下の通りだった。

『病気を発見した大学一年生の時にはもう手遅れの状態だった事』

『信五君にはその事実は伝えられず、手術で無事に癌を取り除けたと説明した事』

『手術の後も定期的に受診して経過を見てきたが、いよいよ排便がふつうには出来ない状態に陥ってしまったので信五君本人には大腸癌が再発したと説明した事』

『医者に告げられた余命は三ヵ月である事』

『信五君本人には余命宣告を伝えていない事』

一通りの説明をし終わった信五君のお母さんは、何度も私に謝罪の言葉を繰り返した。

「ザガー先生、本当のことが言えなくて、本当にごめんなさい…」

私は泣きながら首を横に振ることしかできなかった。

その後、どのようにお母さんと会話して、どのように自分が病院を後にしたのか覚えていない。

それでも私は、お母さんにこう言ったことだけは覚えている。

「俺は医者が何て言おうと、信五君が病気に勝つことしか信じていないです」

⑧へ続く

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

前に進む。たとえジグザグであろうとも。

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コメント

  1. Keiichi より:

    「看護師が見つめた23歳の青年の旅立ち」①から⑦まで読ませて頂きました。
    心に響きました。
    言葉が見つからないのですが、
    ⑧が出るならば、楽しみにしております。

    • ジグ・ザガー より:

      Keiichiさん、「看護師が見つめた23歳の青年の旅立ち」を読んでくださりありがとうございます。
      記事を書きながら、自分と信五君(仮名)との関わりを振り返っています。
      ⑧も書きますので、また読みに来て下さると嬉しいです。